HP-15C Limited Edition



1972年に世界初の関数電卓HP-35が発売されから10年たった1982年、
HPよりコンパクトプログラム関数電卓HP-15Cが発売された。

1982年と言えば日本ではPC-9801の発売が始まった年であり、「笑って
いいとも」の放送が始まった年でもある。

歌謡曲では松田聖子の「赤いスイートピー」や中森明菜の「少女A]、はた
また中島みゆきの「悪女」なんかも流行っていた。

30年前といえば普通に暮らしていても随分昔だが、日進月歩のコンピュータ
業界では石器時代にも匹敵する過去。

そんな1982年に発売された当時最先端の関数電卓が30周年記念として
当のHPより2011年に復刻された。

はたしてHP-15Cってどんな電卓なのだろう。



2011年10月31日、いつものようにインターネットをウロウロしていると、HP-15C
復刻の情報を見つけた。

あまたあるHP逆ポーランド記法電卓の中でも傑作の誉れ高いHP-15Cの
復活を望む声は以前から多く、大きさ、機能、キーレイアウトなど、私もこの
電卓がHP関数電卓の中でもベストだと思っていた。

ちなみに同じボディを持つHP-12Cはいまだに定番モデルとして売られていたりする。

早速日本のHP電卓総代理店であるJulyさんのホームページを覗いてみると
すでに6回目の受付中。

早速後先考えず予約。

バグとかキーのグラつきとかあり、日本への入荷が少し遅れたみたいだか2012年の
1月11日リボンがかかった豪華パッケージで我が家に到着。

以前は軽く1万円をオーバーしていた関数電卓だが、最近では1000円2000円の世界。

下手すりゃ100円均一で売っていそうな勢いだ。

パッケージもブリュースターパックがデフォルトになっていてありがたみも何もありやしない中、
さすがに1万円オーバーの価格だけあり、そこら辺には抜かりがない。

でも、リボンはいらないなー。


パッケージから取り出してみる。

オリジナルのLR44x3の電池はCR2032x2にかわり、CPUは「Voyager」 からARMの
「AT91SAM7L128」 となり、動作速度はオリジナルの100倍近くに達している。

当然といえば当然だがキー配置はオリジナルと一緒。

キータッチはオリジナルをさわったことが無いのでよくわからないが、[f]、[g]キー以外は
ガタもなく、ポチっとしたやや重いタッチで良い。


HP-15CはHP-35から始まるHP関数電卓がもっとも輝いていた時期の製品で、液晶
ディスプレイ、二段シフト、さらに四則演算キーが右側にあり下から[+]、[-]、[×]、[÷]
と、一般的な配置にになるなどその使いやすさから今でも世界中に多くのファンが居る
プログラム関数電卓。

特にキーアサインの関しては、いまだにこの製品を超えるものはないと思っている。

電卓の右側には10キー、四則演算キー、[CHS](+/-)、[EEX](x10^X)、[Enter]と
数値入力に必要なキーが整然と並んでいる。

左側は各関数キー及びスタック操作、プログラミング用キー。

一段目は左から[√X]、[e^X]、[10^X]、[Y^X]、[1/X]と並ぶ。


この電卓、一般的な関数電卓にはある[Y^(1/X)]がない。

しかし、通常[Y^(1/X)]は[Y^X]のうらにあり、シフトキーを押したあと[Y^X]キーを
押すことになる。

HP-15Cは[Y^(1/X)]キーがない代わりに[Y^X]と[1/X]が隣り合わせに配置してある。

これが良い。

例えばY^(1/3)を求めるときには、3を入力したあと[1/X]、[Y^X]と、右から流れるように
キーを押していけばよい。

シフトキーや10キー、関数キーとあっちこっちフラフラする通常の関数電卓に比べ
HP-15Cは指の流れがスムースだ。


よく使われる[X^2]キーが裏にあるのはHP-35以来HP関数電卓の伝統。

シフトキーがまだ装備されず、キーアサインが厳しかったHP-35、苦肉の策として
[X^2]キーが、削られた。

それは以下の方法で簡単にX^2を実現できるからだ。

RPN入力を採用しているHP電卓は[Enter]キーを押した時、Xレジスタの値がYレジスタ
にコピーされる。

ここで[X](乗算)キーを押すと、Xレジスタの値とYレジスタの値の積がXレジスタに入る。

そう、Xの二乗の代用となる。

このほうが指の動く範囲が小さくてすみ、わかりやすい。

それが伝統になったのだと思う。

ただ、この方法、[X^2]キーを使うよりレジスターを一つ多く使うので、HP-15Cなどのように
4段レジスタの製品ではレジスタが足りなくことがあり注意が必要だ。

やはり[X^2]キー位はこだわらず、表にあった方が良いと思う。


メモリは[STO]、[RCL]キーに続いて[0]〜[9]及び[.0]〜[.9]を押すことで20個のメモリが
使える。

特殊な使い方になるが、これ以外にも[I]、[(i)]メモリも使える。

[0]〜[9]に関しては2回のキー操作で簡単に使え、更に必要なら3回キー操作で
[.0]〜[.9]が使えるがここにはよく使う定数などを入れておくと良いと思う。

複素数計算は四則演算のみならず三角関数、べき乗、座標変換などほとんど
全ての演算が可能という本格的なもので大変有効なのだが、いかんせん一段液晶
では表示にどうしても限界がある。

せめて7セグメントでいいので2段表示が出来れば可能性が広がると思う。


計算精度に関しては全くのオリジナルROMを使っていると思われ、三角関数の
計算精度は現在のレベルではやや低いものとなっている。

三角関数の精度のベンチマークでよく使われるTAN(355/226)を計算させると、有効
第二桁から数値が違う。

この計算、HP-41CX(エミュレーター)にやらせてみるとHP-15Cと同じ答えになる。

さらに世界初の関数電卓HP-35(RADモードが無いのでTAN((355/226)*(180/π)))
で計算させると「-7519131.169」とHP-15Cより精度が悪いように見えるがHP-15Cで
同じ計算をさせるとなんと「-7519131.170」。

最後の2桁の数字の違いは数字の丸め方の違いだと思われるが、このように三角関数の
アルゴリズムはHP-35から変わっていないと思われ、このへんが精度の悪い原因なのだろう。


また、プログラム電卓としてみた場合も、7セグメント一段液晶が災いしてプログラムの
見通しが著しく悪い。

ちょっとしたプログラムを組むときにも、いちいちノートに書きだしてからの入力が必要だ。

PCが今ほど普及していなかった当時、プログラミング機能は必須だったかもしれないが、
現在、プログラミングが必要な計算はPCに任せるべきだと思う。

そのぶん使いやすいインターフェースにリソースを割くべきだ。


以上のようにメモリが高価だった時代に設計されたROMをそのまま使っていることによる精度の
悪さや、一段液晶による見通しの悪さ、さらにRPNという特殊性はあるが現在のレベルで見ても
優れたインターフェースであり、使いやすさは未だにこれに勝るものはないと思う。

どこにでもPCがあり、ExcelやMathematicaがいつでも使える(Mathematicaがいつでも使える
環境というのも特殊ではあるが)環境で電卓に求められる機能というのは、ちょっとした計算や、
問題をさっさと片付ける能力。

数式通り入力などはPCに任せればよろしい。

そういった現在にこそHP-15C、更にはRPN電卓は輝くと思うのだ。



この電卓をベースに今の技術で作りなおせば素晴らしい電卓が出来ると思うのだが
・・・、やはり需要がないのだろう。

ちなみにこんな電卓がほしいと思うものを考えてみた。

横型は書類の右上において使うときなど、とても使いやすい、のだが、手に持って
使う時のことなど考えるとやはり縦型。

表示は7セグメントの2段で出来ればメモリ液晶を使い、ON/OFFキーを無しにして
みたい。

こうすれば計算結果がいつでも参照できる。

この二段液晶は通常計算の時にはX、Yレジスタの値を表示し、複素数モードでは
実数パートと虚数パートを表示する。

レジスタはTレジスタを使った4段レジスタもいいのだが、やはり無限レジスタのほうが
何かと安心。

更に防塵防滴機能をつけ、アウトドアでガンガン使えるようになれば是非欲しいのだが

・・・誰か作って。






このページはWingWebに掲載されています。
WingWebが開いていない方はこちら。 WingWebを開く

2012.2.17 *** Hiroshi Yae -- E-Mail: h_yae@sa2.so-net.ne.jp -- Twitter: @h_yae ***