Steve Jobs
2011年10月5日。
二人のスティーブが実業家のマイク・マークラと共にApple Computer Inc.を
ガレージから起こして34年。
その創業者の一人であり、カリスマ的指導者スティーブ・ジョブスがこの世を去った。
私が初めて購入したパーソナルコンピュータMacintosh SEも彼の作品の一つである。
それまで趣味といえば自転車やモーターサイクル、車と、PCとは関係のないものばかり、
というより電気的なものは嫌いだった。
仕事で使うカメラも電子制御が嫌いで完全マニュアル制御のものばかりを使っていた。
そんな私がMacintoshに触れた途端、夢中になる。
コンパクトにまとめられた美しいボディ。
フロッピーディスクの取り出しボタンさえないデザインへのこだわり。
更に他のPCとは一線を画し、未来を感じさせてくれるGUI。
それらすべてが刺激的だった。
更にIllustrator、Photoshop、Xpress、HyperCardなど次々とリリースされるアプリ
ケーション群がMacintoshの無限の可能性を感じさせてくれた。
そして月日は流れスマートフォンが世界市場を牽引する時代になった。
iPadは記録的な売上を叩き出し、2011年8月10日のNY市場終値で世界一番の
売上を誇るスーパーメジャー、エクソン・モービルを抜き時価総額世界一の企業になった。
これらの成功はジョブスでなければ成し遂げられなかったと思う。
それでは彼は何を創造し、何をしてきたのだろう。
私はジョブスの製品づくりの原点は1979年、ゼロックスパロアルト研究所見学で
見たアラン・ケイの「暫定ダイナブック構想」に行き着くと思う。
アラン・ケイが1972年に表した「A Personal Computer for Children of All Ages」
の中に出てくる「DynaBook」こそがジョブスが目指したもので、彼が生涯をかけて
創りだしたものがiPadそして更に携帯性を高めたiPhoneなのではないだろうか。
ジョブスはAlto上にSmallTakeで構築された「暫定ダイナブック構想」を見た直後
Lisaの設計を劇的に方向転換するが、社内で孤立、Lisaプロジェクトを
追われる。
しかし、ジェフ・ラスキン、ビル・アトキンソンらが立ち上げていたMacintoshプロジェクトを
半ば横取りする形で自身のプロジェクトとし暫定ダイナブック構想で使われていたGUIを
実際の製品として世に送り出すことに成功する。
限定的ではあるものの「ダイナブック」の一部が世に出た瞬間である。
その後、自身が有名な口説き文句「このまま一生砂糖水を売りつづけたいか?
それとも世界を変えたいか?」(Do you want to sell sugar water for the rest of
your life, or do you want to change the world?)でペプシ・コーラから連れてきた
ジョン・スカリーにAppleを追われNeXT社を設立する。
NeXTは搭載された光磁気ディスクや、一辺1フィートのマグネシュウム筐体が
取り沙汰されるが最も注目されるのは、初めてカーネルレベルで通信機能が
サポートされたことにある。
更にWebObjectを搭載し開発段階からインターネット接続を重視していた。
今では当たり前に思えるが、当時PCはスタンドアローンで使われるもので、
ネットワーク自体がまだまだ貧弱だった。
NeXT Cubeのプロトタイプが披露された1988年といえばモデムの最大通信速度が
9600bpsとか14400bpsとか言っていた時代。
やっとパソコン通信がまともに出来るようになった時代である。
MacintoshでGUIを手に入れたジョブスはNeXTで通信を手に入れる。
新しいOSをリリースできず、販売予測の誤りから大量の在庫を抱え経営不振に
悩むAppleに返り咲いたジョブスはiMacで会社を立てなおしたあと、iPodをリリース。
ネットを使ったビジネスモデルを作り上げApple内での自身の発言力を確固たるものにする。
ジョブスの製品に対するこだわりは独特のものがあるが、基本はクローズドアーキテクチャ
で、シンプルなハードウェアデザインにユーザフレンドリーなインターフェースである。
しかし、個人的なこだわりは会議で全てが決定する企業の論理にはなじまない。
誰もが認める製品は、誰をもときめかすことはできない。
ジョブスが返り咲いてからのApple製品の魅力は、カリスマCEOの独善的発想からしか
生まれない。
ジョブスの夢がかなう瞬間が訪れた。
初めてパロアルトを尋ねた時から31年。
洗練されたGUI、OSレベルでサポートされる通信機能、世界に張り巡らされたネット
ワークインフラ、電力消費が少なくパワフルなCPU、高性能リチウムポリマー電池、
そして自分の思い通りにできる会社組織。
アラン・ケイが提唱した理想のコンピュータがジョブスの手によりiPhone、iPadとして
結実したのだ。
ジョブスがいなくなりジョブスが描いていた未来が失われたという人がいる。
だが、ジョブスは未来を描くことに長けてはいない。
彼のアイディアはほとんどが他の誰かが描いた夢である。
ジョブスはその実現不可能とも思えるアイディアを実現するための、執着心と
天才的プレゼンテーション能力をもち、人を動かすことができる。
それが彼の全てではないかと思う。
日本の幕末に例えるなら、アラン・ケイが吉田松陰で、ジョブスは坂本龍馬か。
坂本龍馬が道をつけた明治維新はなった。
ジョブスが生涯をかけ創造したスマートフォンは今後世の中をどのように
変えていくのだろうか。
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2011.10.17 *** Hiroshi Yae -- E-Mail: h_yae@sa2.so-net.ne.jp -- Twitter: @h_yae ***