NX70の画質と小絞りボケ



NX70も3回目。

この辺で画質について書いてみたいと思う。

各モードによる画質に違いについてはdemeshinさんがBlogでわかりやすく
書いているのでそちらを参照してもらうとして、絞りによる画質の違いを中心に
書いてみたいと思う。

「小絞りボケ」という言葉を聞いたことがあるかと思うが、これは絞りを絞っていく(F値が大きくなる)
と光の回析現象によってレンズの解像力が下がってくる現象を言う。

一般にレンズは絞ったほうが各収差が出にくくなり画質は上がるのだが、受光体の要求解像度が
大きくなるにつれ無視できなくなり、最近の携帯カメラなどにいたっては開放時が一番画質が
よかったりする。(注1)

NX70はNDフィルタがついていないこともあり、高速シャッターの不自然さを出さないためには
どうしても絞りを絞って使うようになるので、いったいどこまで使って大丈夫なものか検証して
おくことにする。



まず理論値から。

理想的な、収差のないレンズの場合、回析による限界解像力は

x = 1.22*λ*(f/d)

とあらわせる。

λは光の波長でf/dはレンズのF値である。

光の波長を545nmとし、レンズの解像力は一般的に「本/mm」で表されるので、
あわせるために単位を「mm」に変換して逆数を取ると

F値 解像力限界値
F=1.4 1074 本/mm
F=2.0 752 本/mm
F=2.8 537 本/mm
F=4 376 本/mm
F=5.6 269 本/mm
F=8.0 188 本/mm
F=11 137 本/mm
F=16 94 本/mm
F=22 68 本/mm
F=32 47 本/mm
NX70の最小絞りと最望遠
時の開放F値

F値 解像力限界値
F=3.4 442 本/mm
F=9.6 157 本/mm

となる。レンズを使う限りどう頑張ってもこれ以上の解像力は得られない。(注2)

次にNX70のCMOSの画素ピッチから要求解像度を求める。

NX70のCMOSの動画時有効画素数は614万画素。

CMOS上の映像の結像サイズはレンズの焦点距離(3.8-38mm、
35mm(135)サイズ換算26.3-263mm)から

√(24^2 + 36^2)/(26.3/3.8) = 6.25mm ・・・・・結像イメージの対角線の長さ

長辺と短辺の比が16:9なので

長辺= 5.45mm

短辺= 3.06mm

になる。

614万画素で16:9なら

長辺= 3303Pixel

短辺= 1858Pixel

要求解像度は画素ピッチの2倍だから「本/mm」で表すと

(3303/5.45)/2 = 303本/mm

となる。

以上の数値は収差のない理想的なレンズでの結果で実際はもう少し解像力が
落ちるので、F=4でギリギリである。

これを見ると絞りなんてほとんど使えない。

しかも最望遠にすると絞りはF=3.4になる。

もう、なめてるとしか思えない。



ところでこのカムコーダーはハイビジョンカメラ。

と、いうことは画像サイズは1920x1080Pixelに固定され、CMOSから
来た信号はリサイズされ記録される。

なら、その状態で解像力が足りていればいいわけだ。

そこで画素1920x1080Pixcelで要求解像度を計算しなおしてみると

(1920/5.45)/2 = 176本/mm

と、これならF=8でギリギリ足りていて、最小絞りのF=9.6で若干甘くなる
程度と思われる。

よかった、よかった。


実際によかったのか実地に調べてみることにする。

何のことはない、田園風景。

ここで絞りを変えて撮影、ピクセル等倍で比べてみる。

まず中心付近。


F=1.8


F=5.6


F=9.6

中心付近はレンズ収差の影響が少ないので回析による影響が強く出ている。

F=1.8が一番良く、F=5.6の画像もほとんど変わらないが、F=9.6でわずかに木の葉や
稲穂の描写が甘くなっている。

周辺部は


F=1.8


F=5.6


F=9.6

F=5.6が最もよい。

F=9.6は解像度が若干不足している感じでF=1.8は滲んで画質が甘くなっている。

回析による画像劣化とレンズ収差による画質劣化はほぼ同じくらいといえよう。

ということで理論上も実際もF=9.6では若干甘くなるもののギリギリ使えそうだが
もうひとつこのカメラでは気をつけなければいけないことがある。

それはアクティブ手振れ補正である。

手持ち撮影の限界を引き上げるすばらしい機能だが、その代償として若干の
画像劣化を伴う。

というのも、レンズ内蔵のシフトレンズによる手振れ補正と、CMOS上のピックする
範囲を変えることによる手振れ補正を兼用しているため、どうしても撮影倍率が
上がってしまう。

実際に見てみると


3.8mm(35mm換算26.3mm)


38mm(35mm換算263mm)

赤枠がActive手振れ補正時の画角である。

最広角時はそれほど問題にすることもないと思うが、最望遠時にはクロップ量が
増えるため、ギリギリだった解像度が不足する恐れがある。

実際、画角で1.4倍あるので要求解像度も1.4倍の246本/mm。

F=5.6でギリギリである。

以上のことから、通常、回析による解像度不足はあまり気にすることはないが
Active手振れ補正をONにして望遠側で使うときにはF=5.6位までにとどめたほうが
よいかもしれない。(注3)

さらに望遠時にはパープルフリンジが多めに出る傾向がある。

ワイド側に振ったレンズ設計のつけがこのあたりに出ているのだろう。

それ以外は各収差ともよく補正されている。

っていうか収差補正、レンズだけでやってないだろう。

画像処理でできることはそちらにやらせて、レンズはそれ以外の収差補正に
専念している感じだ。

特に湾曲収差は見事。

全ズーム域でほぼ完璧に補正されている。


背景のボケ味は


F=3.4


F=9.6

光彩絞り採用できれいなボケ味だが、絞り開放と最小絞りの差があまりないので
積極的に背景をぼかしていくような表現には向いていない。

先ほどの解像力も含め、開放から最小絞りまでフラットな描写をするカメラだと思う。

防滴防塵機能もついているので、フルオートでカメラのことは気にせずドンドン
被写体に迫っていくような使い方があっている。



(注1)
最近の携帯電話やスマートフォンに搭載されているカメラの解像度は1600万画素
とか言っているが、これだとF=2とかF=2.4でないと撮像素子の要求する解像度を
満たさないことになる。

と思ったらXperiaなどは絞りを持っていないようで白昼のカンカラカンから、目の前の人の
顔もわからないような暗闇まで絞りは常に開放である。

露出はシャッター速度とゲインアップでという大変割り切った設計。

考え用によっては絞りなどの可動部分が無いので耐久性も上がるし、いいのかも。

怪我の功名と言えなくもないが。

(注2)
せっかくなのでテレビ局などでも使われている2/3サイズのカメラがどのくらいの絞りまで
使えるのかを計算してみた。

2/3インチサイズのイメージャーは対角11mmなので16:9サイズだと長辺が9.58mm。

(1920/9.58)/2 = 100.本/mm

上の表で見てみるとF=16位までは画質劣化がなく使えそうである。

(注3)
その後カメラの動きをチェックしてみると、フルオート時Active手ブレ補正ONで最望遠の
時、絞りはF=4までしか絞られないようである。

さすがSONYの開発者様、ぬかりない。




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2011.9.15 *** Hiroshi Yae -- E-Mail: h_yae@sa2.so-net.ne.jp -- Twitter: @h_yae ***