親子三人東北男旅




「父と子は男旅しよう」というトヨタのCMに感化されたわけでもないが、息子ふたりと一緒に旅に出ることにした。

あちらには「カッコつけること」という掟があるらしいが、そりゃ反町みたいにワイルドな外見と日本を代表する
美人の奥さんでもいればカッコつけがいもあるだろうが、しょぼくれたジジイとそこらに掃いて捨てるほどいる
カアチャンではカッコつけようもない。

小学6年生になる上の子がまだ保育園に通っていた頃には車にキャンプ道具一式を積み、よく出かけたものだが、
下の子が大きくなるにつれ3人では車中泊が難しいなど、いろいろな理由で遠ざかることに。

ところが最近上の子が何かにつけ、よく旅に出たいというようになった。

来年から中学生。

こんなこと言ってくれるのも後わずかかと思うと、どうしても行きたい気持ちが私自身強くなり、10月の連休
大好きな東北へと計画を立てた。

計画と言ってもカアチャンのいない「男旅」、とりたてて目的地を決めるわけではない。

日程と大体の方角、第一日目午前中に通る道を決める程度。

あとは行き当たりばったり、行けるところまで。


10月9日。日本列島を挟むように進む二つの低気圧の影響で朝から雨。

3時に起き、朝食を用意して二人を起こす。

眠い目をこすりながらも、これからの旅への期待に元気よく起きてくる息子たち。

普段もこのくらい元気に起きてくればいいのに。

前日に用意してあったキャンプ用具や旅の品々を車に積み、4時出発。

国道19号から117号を乗継ぎ、新潟を目指す。

途中ほとんど休まないので退屈気味の息子Bに比べ、昔からあちこち連れまわされて慣れている息子Aは
楽しそうに流れる風景をみている。

天気は雨が降ってきたり上がったり。雨雲と追いかけっこをしているみたいだ。走っている間は曇りでも車を少し
止めると雨が降ってくる。

徒歩や自転車、オートバイなど、体が露出している移動手段では避けたくなる雨も、濡れる心配のない
車の場合は日差しで視界が妨げられることもなく、かえって楽なくらいだ。

10時、道の駅新潟ふるさと村。

やっと狭い車の室内から開放された息子Bは放たれた鳥のようにとびまわる。

降る雨を物ともせずはしゃいでいると、どうしてもやりすぎてしまうようでいつの間にか兄弟げんか。

ふたりともトオチャンに不満たらたらぶつけるが、こんなもんに付き合っていても埒があかない。

どうせ両方共悪いのである。

たいてい「知らん!!」と、ほったらかすことにしている。

道の駅を後に先を目指すが結構遊んでいたのですっかり時間が過ぎてしまい、そろそろ腹も減ってきたので
お昼にする。

とは言っても街道筋。

大した店があるもんでもない。

某大手ラーメンチェーン店を見つけ、ここに入ることにした。

創業何十年とか言っているが、駅で食べる立ち食いラーメンみたいな味。

それでも腹が減っていればうまく食えるものだ。

みんな完食でスープも飲み干した。

一心地ついたのでさらに車を走らせる。

新発田市に入り国道113号線に分岐し海岸線の道へ。

山国に住んでいるので海が見えるとなぜか心が弾む。

ひなびた漁村を横目にさらに進むと岩壁が海岸沿いに連なる笹川流れに着く。

小雨模様の天気だが、たまらず車を止め海岸で遊ぶことにする。

息子たちはもう大騒ぎ。うちの子は変なアトラクションに連れていくより海岸で遊ばせていたほうが喜ぶ。

たっぷり遊んだら後は今日のねぐらまで走るだけ。

BlackBerryでWebにアクセスして天気を調べると、今夜半にかけて東北地方は大荒れらしい。

ここは無理せずどこかビジネスホテルにでも宿をとることにする。

夕方6時ころまで走ると秋田あたりまで行けるだろうと、秋田駅前にある東横イン秋田東口に電話すると
空き室なし。

やはり駅前は混むらしい。市街地から外れたルートイン秋田土崎に連絡するとセミダブルの部屋が確保できた。

セミダブルに3人。

ちょっときつそうだが背に腹は代えられず、お願いすることにした。

秋の日は釣瓶落とし。すっかり暗くなった秋田の街を抜け、秋田ポートタワーを目印に走るとルートイン秋田土崎
はすぐに見つかり、51歳のジジイと小学6年生、小学2年生の男旅トリオは無事ビジネスホテルにチェックイン
することができた。

あとは夕食を何とかしなくてはいけない。

このホテルは市街地からちょっと離れているので周りに飲食店はない。

車で出かけることになるのだが、始めて来た(始めてでもないが)街、どこに何があるかわからない。

近くをぶらぶら歩いて、というわけにもいかないのでGoogleMapで近くにあるファミリーレストランを検索すると
ガストを見つけた。

BlackBerryを息子Aに渡し助手席に乗せ、秋田市街地に向けハンドルを切った。

息子Aの案内で無事ガストに着くと同じ敷地内にスーパーマーケットがある。

丁度いいので今夜の酒と肴を仕込む。

その後ガストで食事。

トオチャンは鯖の味噌煮定食。子供たちはハンバーグ。

「今日は豪華だ」と感動する息子たち。普段、いいもの食わせてないみたいじゃないか。

食事を終え、ホテルに戻る。

ここはビジネスホテルのくせに大浴場が付いている。

部屋の狭っちいバスルームで湯に浸かっても疲れが取れないので早速利用させてもらう。

温泉評論家ではないので泉質とかよくわからないが、肌にまとわりつくようなヌメッとした感触で
とても暖まる。

今日一日の疲れが湯に溶けていくみたいだ。

早起きしたこともあり眠くなってきた。

でも旅の宿、晩酌は欠かせないのでいつもより早めにあがり部屋に戻るとビールをグビグビ。

部屋ではホテル支給の作務衣に着替えた息子たちが遊んでいる。

窓からは秋田港の明かりが見え、夜は更けていく。

夜半、隣に寝る息子Aの頭突きで目が覚める。

やはりセミダブルに三人はきつい。

急遽息子Aの寝る向きを天地逆さにさせる。

ベッドの両端にねるトオチャンと息子Bが頭をベッドトップ。

真ん中の息子Aが頭を下にしたいわゆる山岳式(こんな言い方あるのか?)。

だが、かいあってか無事朝を迎えることができた。

起きたら早速朝風呂。

そういえば今日は日曜日。日曜アニメの日である。

風呂も早々に部屋に戻りテレビをつける息子たち。

その後ホテルの朝食を食べ仮面ライダーまで見て出発。

もうすでに8時半である。

せっかく秋田港の近くに宿をとったのだからと、港によってみる。

小雨降る港をブラブラして結局秋田市を出たのは9時をまわっていた。

教訓。急ぐ旅にホテルは厳禁!!


今日はどこに行こうか。

とりあえず田沢湖を目指したのだが途中道を間違え国道13号線を南下していた。

田沢湖へと続く46号線との分岐を見過ごしたらしい。

いや、見過ごすほど分かりにくい交差点ではない。多くの車が左折していたんだが、なんにも考えず
直進してしまった私が悪い。

でも、きた道をもどるのも癪なのでそのまま13号線を行くことにする。

そのまま行くと郡山まで行ってしまうので途中108号で奥羽山脈を越え石巻に向かうことにした。

13号で横手、湯沢と過ぎ、108号線との交差点を左折すると本日のメインとも言える羽後街道。

途中鬼首峠の前後は温泉郷が連なるが、朝風呂ですっかりのぼせているので入る気にならずスルー。

こけしで有名な鳴子も川原で遊んだだけ。

昨日飛ばしすぎたせいか、朝から風呂に入りまったりし過ぎたせいか、体がだるくいまいち調子が出ない。

ま、こんな日もある。

朝方降っていた雨もいつの間にか上がり、日が当たってきた。

山沿いをぬっていた道はいつの間にか市街地を走るようになり、太平洋が目の前に広がる。

せっかく石巻まで来たのだからと、漁港によって見る。

するとなぜか海があふれている。

昨日からの雨と満潮が重なったのだろうか。山国に住む身としては衝撃的な光景である。

だいたい川の堤防が決壊したら速攻で高台に逃げなくちゃいけないんじゃないのか?

周りにいる人たちはいたってのんびり。

結構日常的な光景なのか?

人見知りで、知らない人に声をかけるのが苦手なトオチャンは事の真相を聞き出せないまま
その場を後にした。

10月。すっかり日が短くなってきて、まだ4時というのに日が傾いてきた。

海岸に出てしばらく遊んだ後、今日のキャンプ地を探しに石巻を後に。

野宿する時にはなるべく暗くなる前に場所選びをするようにしている。

大きな街の近くには大抵大きな川があり、その河川敷に野宿することが多い。

だが、この日は雨で増水していて危ないので他を探すことにした。

BlackBerryでGoogleMapを立ち上げるとちょっとした高台にこじんまりとした公園がある。

公園は基本キャンプ禁止なのだが、焚き火をせず、ごみを散らかさず、公園を利用する
他の人に迷惑がかからないよう早朝出発を守ることで一晩お借りすることがある。

すでに暗くなった公園を訪ねてみると、公園自体は門で閉鎖されていたが、その外に
舗装していない駐車場があり、幸い止まっている車も他にない。

一晩ここをお借りすることにして駐車場の一番奥、駐車した車の横にテントを立てた。

ひとりでの野宿兼、小さな子供一人を連れてのキャンプ用にと買ったMountbellのステラリッジ3型は
小学生とはいえ二人の子どもが加わるとさすがに狭い。

幸い雨は降っていないので駐車場の地面に直に座り夕食を作る。

この夜はご飯とカップラーメンで簡単に済ませ、早々に寝袋にくるまる。

ビールを飲みながら、テントの天井から吊ったヘッドランプの明かりで地図を見ていると、まだ7時半というのに
息子Aの寝息が聞こえてきた。

野宿でのテント泊は小さな頃から経験しているせいか、寝袋にくるまると安心するのだという。

それに対し、ほとんどテントで寝たことのない息子Bはなかなか寝付けないようで何度も寝返りをうっている。

ビールの酔いが廻ってくる頃、息子Bの寝息も聞こえてきた。


夜半フライシートを叩く雨の音で目がさめたので心配したが、明け方にはすっかり晴れていた。

日の出40分前の5時起床。息子たちをたたき起こす。

キャンプならコーヒーでも沸かしのんびりするところだが、公園での野宿。

朝食は出発したあとで取ることにして撤収にかかる。

子供たちが自分が使った寝袋をたたんでいる間にフライシートを外す。

上の子がいろいろ出来るようになってきたので、簡単なことなら任せられる。

日が差してくる頃には撤収完了。

走りだしてすぐにあるセブンイレブンでパンと缶コーヒーを仕入、朝食。

今日は家まで帰らなくてはいけないのであまりのんびりしてはいられない。ここは仙台である。

とりあえず国道4号線を南下する。

福島で4号線から離れ115号線で猪苗代湖を目指す。

途中一度道の駅でトイレ休憩しただけの走り詰め。

でも二人共すっかりなれたのか景色を眺めたり、たわいもないおしゃべりをしながら楽しそうに過ごしている。

このままではさすがにかわいそうなので猪苗代湖ではたっぷり遊ばせてやることにした。

走りまわる子供たち。

何が楽しいのか理解に苦しむが二人で楽しそうに遊んでいる。

いつもふたり一緒。一人っ子で兄弟のいないトオチャンはなんとなく羨ましい。

さて、何時までもここで遊んでいるわけにもいかないので先を急ぐことにする。

猪苗代湖からは49号で会津若松を目指し、その後只見線で国道17号に抜けよう。

会津若松についた頃お昼になった。

会津若松といえば喜多方ラーメンである。

どこが旨いかよくわからないが会津若松駅側の来夢というラーメン屋に入った。

なんか昔どこかで見たことがあるような名前が気になるが、そんなにまずくもないだろう。

旅も最後が近づいてきたので煮玉子もサービスしてやるぞ。

旅しているときはどうしても栄養が片寄るせいか汁ものが旨い。

当然スープまで完食である。

会津若松をあとに国道252号線へと進んでいく。

並走するJR只見線が有名であるがこの252号線は豪雪で有名で冬季閉鎖となる国道である。

進むにつれ、道にはスノーシェイドが点々と現れ只見町に着く。

鉄道はこの駅から田子倉トンネルへと入っていくが、国道はさらに只見ダム、田子倉ダムへと続く。

只見ダムから一気に高度を上げる急峻な道を駆け上ると田子倉ダム。

そして一休み。

やたらカメムシが多かったのが気になったが夕食前最後の休憩。

しっかりトイレに行ってスッキリしておく。

田子倉ダムを後にすると、うちの裏山を彷彿とさせるタイトワインディングが続く六十里越。

県境は六十里越トンネルが開通している。

六十里越という名はほんとに60里あるわけではなく6里でも60里に匹敵するほど険しいという意味らしい。

トンネルを過ぎ、しばらく行くと山村がチラホラと現れてくる。

交通量が増えてきたなと思う頃には国道17号線を走っていた。

沼田市に着く頃にはすっかり日も傾き真っ暗。

ここで145号線へとハンドルを切り、真っ暗になった道を車を走らせる。

腹がへったので途中セブンイレブンでおにぎりを買って食べる。

途中川原湯温泉があったり、草津温泉へ後何キロの看板があったりと野宿で臭くなった体を洗いたい
気持ちがよぎるが我慢して鳥居峠を越える。

もうこのへんまで来れば普段走っている道。

でも事故を起こさないように気を引き締め、三才山トンネルを抜けると松本の街の灯りが見えてきた。


2010.10.19 *** Hiroshi Yae -- E-Mail: h_yae@sa2.so-net.ne.jp -- Twitter: @h_yae ***