主人公が7階に入院した経緯

2004年初夏、大学生の主人公は自動車学校に通って、普通免許を取得したところだった。
免許を取った動機は特になかったみたいだが、それでも運転することを楽しみにし始めたその翌日、
寝覚めから胸が苦しかった彼は普段縁のない病院を訪れ、そして、そのまま入院した。
病名などは一切出てこないが、難病らしく、入院、退院を繰り返す。そして手術も。
その年の暮れ・・・

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みぞれ混じりの雨の中、久しぶりに帰ってきた俺の家。
何故か、家族が全員揃っていた。
普段からそれほど話すことも無かった親なのに、どこかギクシャクとしながらも、笑顔で迎えてくれた。
いつも口喧嘩ばかりしていた妹が、俺の好きなクリームシチューとエビフライを作って待っていた。
こたつに並んで座った。みかんをむいてくれた。
やけに優しかった。それが印象的だった。

この時点で…俺は少しだけ察した。

ポケットに入れたままになった、例の真新しい免許証。
この免許証は、その価値を生かすことなく終わるのかも知れないと思った。

ギクシャクとした不自然な笑顔に迎えられて…
冷静に、曖昧に、ひたすら薄っぺらく、他人事のように俺はそう思った。
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2005年1月、年が明けて、また帰って来た病院で彼は告知される。

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いわゆる、告知というやつなんだろう。
すごく遠回しな言い方だったが、そう解釈した。死ぬらしい俺は。

「そうですか」

だから、それだけを返した。他に言葉は見つからなかった。
入室してから出るまでに、口にしたのはこれだけだった。

俺の返事を受け、手に持ったボールペンを走らせる先生。
恐らくはホスピスへの手続きだろう。
あくまでも事務的な態度だった。オヤジも似たようなもんだった。

こんな簡単なモンなんだ。
それが俺の率直な感想だった。
そして、その日を境に4階から7階へと、6人部屋から個室へと変わった。

それと、この7階自体は他の階と少し違っていた。
まず、床がピカピカになっていた。
天井も今までより、ずっと高く広々としていた。
病室の中もすごく綺麗で、大きな窓からは明るい日光を採り入れる仕組みになっているようだった。
だけど、窓は少ししか開かなかった。
試しに計ってみると、ちょうど頭がギリギリ通らない幅だった。

他にも、認識用の腕輪の色が変わった。
入院した日から、ずっと手首に巻かれていたビニール製の腕輪。
俺の名前や血液型が記載されていた。

その色が、青から白に変わった。

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