より高いところへ

--------------------------------------------------------------------
朝を迎えた、富士山五合目。
わたし達は車から降りると、大きく伸びをする。


「ねえセツミ。どこにいると思う?」
「いきなり…なんのこと?」
「神さまとやらよ」
「………………」
「さあ、あなたの方が専門家でしょ?」
「そうね、そうだったわね」

そして、しばらく考えていたかと思うと。
「やっぱ、あそこかしら」
そう言いながら、見上げたのは空。
真っ青な夏空がどこまでも広がっていた。

「やっぱ、もっと近づかないと、聞こえないのかもね」

それだけを言うと、登山道へと向かって、歩き始める姫子さん。
もしかしたらという気はしていたけど。
でも既に、その行為自体が自殺と同意だった。

「本気なの?」
「……………………」
「禁忌なんでしょう、カトリックには?」
「”元”には関係ないわ」

そして。歩いていた足を止め、振り返ると。
「悪いわね、セツミ。ひとこと、言ってやらないと気が済まないのよ」
「言うって、誰に?」
「決まってるじゃない、神さまとやらに、文句をね」
文句? 神さまに?
本気なのだろうか。

「もしかして、それが最後の一つ?」
「ええ、これが最後の一つよ」
それだけを告げると、登山道へと歩き始める姫子さん。

今、わたしは。止めるべきなのだろうか?
それとも。背中を押してあげるべきなのだろうか。

そのどちらかも分からないから。
只、隣に居ることしか、わたしには出来なかった。

--------------------------------------------------------------------
《ブラウザバックで戻ってください》
--------------------------------------------------------------------