フランダースの犬
■ネロかパトラッシュかアロアか。
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「さて、またまた盛り上がってきたわね」
その言葉とは反対に、落ち着いた口調。
さっきから黙ったままのわたしに向かって、
「いいわよ、あるんでしょ? 聞きたいことたくさん」
「うん」
小さく頷くと、わたしはゆっくりと口を開いた。
以前から姫子さんには尋ねたいことがたくさんあった。
「死ぬって聞かされた時、泣いた?」
「そりゃ、ちょっとはね」
「じゃあ、どうして自分だけがって恨んだ?」
「うーん、それは難しい質問ね。
逆にあなたに聞くけどさ。恨むって、誰に対して?」
「えっ…」
わからない。
予想してない質問からの返しだった。
「そうね…もし神さまってのがいるのなら、恨んだかもね」
「元カトリックのくせに、神さまの存在を信じてないの?」
「いいえ、信じてるわよ。”元”カトリックでもね。恐らく神さまはいる」
でもね、どうやら多忙らしいのよ、神さまとやらは。
それとも…只、無関心なのかしらね」
まるで独り言のように淡々と話し続ける。
月明かりに照らされたその顔は、どこか寂しげで、達観したようにも思えた。
「ねえセツミ、あなた、フランダースの犬って知ってる?」
「フランダースの犬?」
「ええ、結構有名な話しだから知ってるでしょ」
「うん、大体は」
突然に出た単語に、かろうじて頷いて答える。
幼い頃にアニメの再放送で見たように思う。
確か、身寄りを亡くした、子供のネロと犬のパトラッシュの物語りだった。
「ネロとパトラッシュとアロア。
あなたは誰になりたい?
もしくは、誰にはなりたくない?」
結局最後には死んでしまうネロとパトラッシュ。
その二人の親友であるアロア。
わたしは、死んでしまうのは嫌だ。
でも、だからといって、一人残されるアロアにもなりたくない。
「誰にもなりたくない」
「そりゃあ、無理な相談ね」
「どうして?」
「人には、この三択しかないのよ」
そう答える姫子さんの顔は、いつもの顔とは違っていた。
たまに見せる、とても厳しい表情をしていた。
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