自転車で帰省
去年の夏休み、自転車で自宅のある塩尻から諏訪湖まで途中塩尻峠を越えて往復した息子A。
行く前は「むりだよー」とか「疲れたー」とか言ってたくせに、いざ終わってみると「こんなの楽勝」とか言って
調子こいています。
よく頑張ったねとほめてはやりましたが、このまま調子づかせては教育上良くありません。
「じゃ、来年はバアチャン家まで自転車で行くぞ!!」
「しょええぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
バアチャンの家というのは上田市鹿教湯温泉にあります。
車を使うと我が家から松本市を通り、標高1100メートルの三才山トンネルを抜けると一時間ほどで
つきます。
しかしこのトンネル、もうずいぶん前に作られたもので片側一車線で中に歩道がありません。
自転車で通るには狭い車道を通るより他にありませんが、基本的にトラックが横に2台並ぶと一杯な
ので大型が二台すれ違うタイミングでは、後ろから来た車がこちらに気づいてくれてブレーキを踏んで
くれないとものの見事にはねとばされます。
夏場は自転車の通行が増えるらしくトンネルの前後には自転車に注意の看板が立てられますが
他人なんて信用できません。
それに、三才山トンネル越えの国道254号線は中信地方(長野県中部地方で松本、塩尻、諏訪
などがあります)と東信地方(長野県東部地方上田、佐久、軽井沢などがあります)でを結ぶ主要
道路。
大型トラックが黒い排気煙をたて、羽の生えたスポーツカーが濁った大気をかき混ぜながら通り過ぎ
ます。
はっきり言って自転車で走ってもおもしろくも何ともない。
そこで大きく迂回し、江戸五街道が整備される前、日本各地を結ぶ主要道路だった東山道を
たどってみることにしました。
8月11日朝6時。
息子Aと4時半起きして、いつもより多めの朝食を取り、万全の準備をして家を後にしました。
万全の準備のはずが、スタート直後に息子Aがグローブをしていないのを発見。
まだほんの数百メートルしか進んでなかったので速攻引き返しました。
しかしこの時、もう一つ忘れ物をしていることに二人は気づかずにいたのです。
家を出た後いつものように田川沿いの堤防道路を松本市内目指して走ります。
夏の朝の独特のにおいが鼻をくすぐりさわやかな風が体中を吹き抜けます。
自転車に乗ってて良かったと思える一時。夏は朝がいいですねー。
松本市内に着くと昼間と違い閑散とした町並みのなか、ペタルをこいでいきます。
朝はいつも見ている風景を新鮮な旅先へと変えてくれます。
道が女鳥羽川と交差したら今度は女鳥羽川沿いの堤防道路を上っていきます。
信大のキャンパスを左手に見ながら上っていくとやがて国道254号線と一緒になり急に交通量が
増えだします。
しょうがねえので我慢して歩道を進みます。
「こら、そこのトラック、排気ガスがくせえぞ!!」
しばらく我慢して進んでいくと松本トンネルから続く道との交差点にさしかかります。
この交差点にはセブンイレブンがあるのでここで食料を調達することに。
建物の片隅に自転車を立てかけ鍵をかけ、さあ店内へと思ったら息子Aが困ったような顔をして
います。
「どうしたの?」
「鍵忘れた」
んとにもう。しょうがねえのでトオチャンの鍵で一緒にロック。
やっとお店に入れました。
おにぎりやら、アクエリアスやら、団子やらを買い込みバックパックに詰めたらいよいよ本番です。
東山道は時代と共にそのルートを変えています。松本から四賀村に抜ける道も3本あり、西から
馬飼峠、刈谷原峠、稲倉峠とあります。
現在は馬飼峠のさらに西側を国道143号線が通り、青木峠を経て上田に続いています。
一番西側を通る馬飼峠は荒れたダートの峠道。せまく急な道が続き、峠付近は崖崩れが何年も
そのままになり、車の通行は出来ません。
バイクでも普通のトレールと一般ライダーのスキルでは越えられません。トライアルマシンなら何とか
なるかも。後、自転車でも担げば越えられますな。
次の刈谷原峠は、ムリすれば一般車でも何とかなりそうな林道。とはいっても結構タイトなので、
ローダウンしたセルシオあたりだと絶対にムリ。ランクルも大きな車体をもてあましそう。
そして最後の稲倉峠はタイトな1.5車線道路で標高1,010m、全線舗装されていますが通る車も
なく、ひっそりとしたたたずまいです。
今まで何度か越えたことがありますがその間、一台の車にもあったことがありません。
この辺で一日遊ぶなら馬飼峠を越え、刈谷原峠を帰ってくるというコースもおもしろいのですが、
今回はバアチャンの家まで行かなければいけないし、子連れなので一番越えやすい稲倉峠を
越えることにしました。
うるさくて臭い国道を外れ稲倉の集落に入ると、とたんに静かな朝の風景。
ほほをなでる風もさわやか。自転車の旅はこうでなくちゃ。
途中左にある急坂が稲倉峠へと続く峠道の始まり。
フロントギアをセンターに落とし(息子Aは一番軽いインナーでくるくる回してます。フッフッフ、まだ
まだよのー)上り始めます。
細い九十九折れの道は回りから張り出した木々の葉で日差しが遮られ涼しく気持ちがいいです。
直線の坂道はいくらこいでも進んだ気がしなくて嫌いなんですが、こういう道はあそこのコーナーまで、
その次のコーナーまでと目標がつけやすくてペースを維持しやすいんです。
それにコーナーを抜けるたび新しく広がる景色が目を楽しませてくれます。
いい気分で上っているといつの間にか息子Aが遅れ始めました。
「そろそろ休憩しよっか」
ということでおやつタイム。
どうせ車なんて通りゃしないので適当なところで自転車を止め、道ばたに座り込んだらさっき買った
ようかんでエネルギー補給。
チョコレートでもいいんですがすぐ溶けちゃうんでようかんの方がハンドリングしやすいですね。
それにのどが渇いていても食べやすいのもいいです。
一休みが終わったらまた上り始めます。
いつも坂を上るときにはささと行っちゃって適当なところで待っているんですが、今回は先になり後ろ
になりして励ましながら上ります。
そして稲倉峠到着。
あとは四賀村まで一気の下りです。でもそのあと、保福寺峠越えが控えていますので、団子を食って
備えます。今食っとけば登り始める頃までにはエネルギーに変わってるだろうという作戦。
で、この団子がすごくうまい。汗で失われた塩分と即エネルギーになる糖分、そして本格的な
エネルギー補給のデンプンとほぼ完璧な補給食。昔峠で団子屋が名物になったのも頷けるとい
うものです。
団子を食い終わり、水を飲んだら四賀村までかっとびます。
ほてった体に山の冷たい風が気持ちいい。夏とはいえ一気にクールダウンします。
でもクールダウンも一時、標高が下がるにつれ風はどんどんその温度を上げ、山村の家々が見
えてくる頃には「あっちー」となってしまいます。
急坂を下りきり、県道181号線との交差点を右に曲がります。
途中自動販売機の前で一休み。カアチャンとバアチャンに電話します。
バアチャンなんて心配で心配でオロオロしてますが適当にあしらって先を急ぎます。
県道を保福寺川に沿ってだらだらと上っていくと左手に保福寺があり、さらに進むと左に大きく
曲がり本格的な峠道になります。
この峠道、距離はありますがあまり急なところはなく標高差の割には楽に越えられます。
稲倉峠よりは道幅がありますがここも滅多に車が通りません。
ひたすらペタルをこぎ続けます。木々がとぎれて日が当たっているところは暑いけど、木陰は涼しい。
途中二人乗りのハーレーが追い越していきましたが、すれ違ったのはそれだけ。併走しても大丈夫。
「がんばれー」とか「もうすぐだぞー(大嘘)」とか励まして上ります。
ちんたら走っているくせにアブが近づいてくると一気に加速するやつ。
こいつはアブと蜂が大ッ嫌い。
まだまだ元気だな。
途中数回の休憩をはさみついに標高1,340mの保福寺峠に到着。
「やったー」
「あとは下るだけだぞー(大嘘)」
ここからそのまま県道181号線を下ると沓掛温泉を経て青木村に出ますが、途中ダートの
県道12号線に入り鹿教湯に向かう予定。
スタンディングが多くなるので筋肉がけいれんしないようプロテイン入りゼリーを飲んどきます。
峠の上田市側は舗装が荒れていて落ち葉もそのまま、気をつけないと簡単に横っ飛びします
ので慎重に下ります。
県道12号線との分岐を右に曲がったらいよいよお待ちかねのダートの下りでございます。
「キャッホー」
・・・・・・・
・・・
・・・・・・
・
・
あれ?息子Aがいない。
まいっか。
「キャッホー」
途中登りもちょっとあって楽しい楽しい。
「でもさすがにちょっと待ってるか。」
「あれ?まだ来ないぞ」
「ん〜、どっかに落ちたかな」
と心配になって探しに戻ろうかなーと思った頃、ヨタヨタしながら来ました息子A。
半泣きで、声をかけても止まりもせず先に行っちゃいました
「おーい、怒ってる?」
「べつに。」
「ころんだの。」
「べつに。」
やっぱり怒ってるー。
「がんばったねー。」
「よく一人で下りてこれたねー。」
ほめちぎったらご機嫌直してくれました。
やがて道は舗装道路の下りになり、見慣れた鹿教湯の町並みが。
たどり着いたバアチャン家の前では、一足先に車で着いたカアチャンと息子B、
それに半泣きのバアチャンが拍手で迎えてくれてます。
「ウッ! 恥ずかしいから勘弁してよー。」